ドリーム小説 まだまだ続く厳しい残暑の中、俺は1人坂を歩いていた。

「全く…暑すぎる。」

夏のあの爽やかな『暑さ』ではなく、むっとするような『熱さ』にうんざりしていた。
ジメジメとした空気、肌に吸い付くシャツに、ズボン。
おまけに今はハイキング中。もうこの世の地獄を味わっているようにしか思えなかった。
どんなに拭っても流れる汗にイライラしながらひたすら歩いていた。


暦の上ではもう秋。つまりfallのはずだ。
なのになんなんだ、この暑さは・・・地球温暖化とかやらの仕業か?


「勘弁してほしいぜ」

このままだと冬は来ないんじゃないか?そう思えてしまうほど暑かった。
ちょっとしつこくぶつぶつ言いすぎか。










大分坂を上ったところで前方にふと見覚えのある後姿が視界に入った。
その女子生徒は重たい自転車を押しながら坂を上っていた。
俺は疲れない程度に少し歩くスピードを速くした。一方その生徒は何回も止まったりしながら休憩をしていた。
俺より可哀想な奴を見つけてしまったなぁと思う。

ある程度生徒と距離が近くなって分かってきた。
長い黒髪ストレートで知り合いと言えば…アイツしか居ない。だ。



「おい、大丈夫か?」
「え?」

特に話しかける言葉も見つからなかった為、適当に声を掛けた。
その声にはびくっとしてその場に立ち止まり後ろ、つまり声が聞えた方向を向いた。



「あ・・・キョンじゃない。こんなところで偶然だね」
「お前もご苦労なこった。暑い中こんな坂道を自転車を押して帰るなんてな。」
「あはは、まぁねー。そんなのお互い様じゃないの。」



しばらくしては一旦歩みを止めた。俺も合わせて立ち止まる。
何をするのかと思えば俺に自転車を支えるように指示し、
手首につけていた黒いゴムで髪を適当に結び、よしっと言ってまた歩みを始めた。
こいつは俺のツボを刺激して何をしたいんだ?と思いつつ、ハルヒもよく似合っているがもまたよく似合っていた。


そんなのポニーテール姿を見ていると「ちょっと、見すぎ。」とが苦笑した。
やっぱり狙ってたのか。

「この方が好きでしょ、キョンは。」
「うるさいな。」
「素直じゃないねー」

男して女に茶化されるなんて情けないがもうつっこむ気力も無い。





「にしてもキョンがこんな時間に帰るのなんて珍しいんじゃない?」

片手で腕時計を見ながら今日は活動なかったの?と聞いてくる。
あったらこんな時間に帰れないぞ。


「あ、そうだね。でもなんでお休みなの?エスー・・・SOS団だっけ?は年中無休なんじゃないの??」
「分からん。なんでか知らないが団長様のご機嫌がナナメで中止になっただけだ。」
「ふーん」


自分から聞いたくせに、いかにも興味が無さそうに返答されてしまった。






「それより、自転車大変じゃないか?」

なんだかんだ話しながら自転車を押しているため、多少息が上がっていた。

「そんなの見て分かるでしょ?大変に決まってる。」

そう言って、ゴムで結えきれなかった前髪を鬱陶しそうに耳に掛ける。
いやまぁ楽そうには見えないな。

「でしょー?あー疲れた!……キョン自転車押してー?」

なんとなく予想はしていた言葉が聞えた。

「断固拒否。」
「・・・ケチ。」




こんな蒸し暑い中、しかも上り坂を自転車を押しながら歩く星夢に同情はする。
だからと言って代わってあげようなんて俺もそこまで紳士じゃない。
まあ朝比奈さんだったら会った瞬間「俺が押しますよ」というだろうけどな。


「キョンあんた男でしょ!?か弱気レディが困ってるのよ?」
「だから何だ」
「普通さー代わってあげようとか思わないわけ?」
「一部の人間を除いて、思わないな。」
「なにそれ。」
「そのまんまの意味だ。」

というかこの暑さにも関わらずそれだけ元気なら行けるだろ。
お前なら行ける。大丈夫だ。俺はそれを分かっていてお前に試練を与えているんだ。
感謝しやがれ。


「何が試練よ。朝比奈さんだけ手伝ってあげるなんてズルいわよ」
「体力つけるにはちょうどいいだろうよ。それに朝比奈さんみたいな人を『か弱気レディ』と言うんだぜ?」
「余計なお世話よ。・・・むかついた。よしっ!」

じゃあ取引しようじゃないの!!と言い出した。
やっぱり大声を歩きながら出せるんなら自転車を押すことぐらい別に大したことではないだろうよ。
そんなことを思いながら、なんだ?と問いかけてみる。







「キョンが押してくれたら、後で…そうね……」
しばらく考え込んで、が出した取引条件を聞いて俺はノった。



『朝比奈さんの写真+アイス一本奢るって言うのはどう!?!』



「よしノった。」

聞いた瞬間に答えてしまった。
あぁ俺も弱いな、このくらいで簡単に釣られてしまうとは。

「ふっふっふ・・キョンも所詮思春期の男の子ねー」
「悪いかよ。」
「べっつにー?」


怪しい笑い方をしながらチャリのハンドルを俺に押し付けた。
俺は仕方なく自転車の前かごに入ってるのカバンを乱暴に本人へと投げ、自分のカバンを遠慮なく放り込んだ。


「それくらい持てよ」
「……はいはい」





俺がハンドルを握ってから数分後。

「ねぇ、キョン?」
「なんだ」
「ちょっと提案があるんだけど…」

汗を片手で拭いながら返答をしてやる。
帰ったら夕飯の前に絶対シャワーせねばならんなぁ。と思いながら横目でを見る。
どうせ大したことじゃないんだろ。


「もうちょっとで坂上りきるでしょ?」
「そうだな。それがどうした?」
「そしたらさ、……そのまま一気に二人乗りで坂を下ろうよ!!」
「…は?」


一回してみたいの!少女マンガでよくあるアレ!良いでしょ?!お願いっ!!
そう言って俺に手を合わせて片目を瞑り、ね?と言う。
俺は思わず立ち止まってを見る。…お前それは反則だろ。
その頼み方はこういうのもなんだか、別にしてやってもいいかと思ってしまうほど・・・可愛かった。


「仕方無いな。その代わり朝比奈さんの写真かアイスを増やせ。」

俺としては写真を増やして欲しいが、と付け加えて条件を出す。
案外あっさりと了承したが……大丈夫だろうか。二人乗りなんて滅多にしないからなぁ。




「それだけでしてくれるんだったら、お安い御用よ!ありがとうね、キョン」

の溢れんばかりの笑顔を見て俺も思わず微笑んでしまった。








それから長い上り坂を上った後、俺がハンドル操作をしが後ろに乗って
これまた長い下り坂を下って行った。

「わーわーわー!すんごい気持ちいいねっ!!」

後ろから本当に嬉しそうに騒いでる声を聞きながらブレーキを上手く調節する。

「よし、しっかり掴まってろよ!」
「うん!!」

ぎゅっと俺に手を回している力が強くなったのを確認して俺は勢いを緩めるのをやめ、下り坂を一気に下った。
夕陽を浴びながら風を切っていくのは気持ちがよかった。
はいつの間にか髪を下ろし、綺麗なストレートを靡かせていた。
今この瞬間、「青春してるなぁ」と思ったのはきっと俺だけではないはずだ。



その後アイスをしっかり奢ってもらい、しっかり朝比奈さんの写メールを貰った。
何とも愛らしい姿で写っていた。しかし、こんな写真何処で入手したんだ?
聞いても答えないを怪しく思う。



そんな帰り際にがこう呟いた。

「こういうこと出来るのってさ、幼馴染の特権だよね。」
「あーまぁそうかもしれんな。」
「……キョンと幼馴染でよかった。」
―ありがとう!

そんな意味深な発言を残して帰ったが気になった。







翌日。


「ねーキョン?何かあたしに隠し事をしてないー?」


教室に来て早々ハルヒは不気味な笑みを浮かばせながら質問してきた。

「いきなり何だ。」
「昨日やけに楽しそうだったじゃないー?綺麗な女の子と一緒に居たみたいで。」
「・・・」

こいつ見てたのか。何か視線を感じていたが気づかなかったぜ。
もしかして坂を下っているのも見れては居ないだろうな……。

「そこもバーッチリ見たわよー??」

さぁ白状したらどう?!と言いながら不気味な笑みを俺の顔に近づける。


「さぞかし楽しかったのかしらー?あの時のキョンの顔、すんごい幸せで楽しそうな顔してたんだけど。」
「そうだったか?」

そんなに楽しそうな顔をしていただろうか?気持ち的にはそんな感じだったが……。

「だからね、何があったのかを聞きたいのよ。その場合によっちゃ、あの子も入部決定ね。」
「別にお前に話すことは無い。」
「ふーん・・?そういうのね?分かったわ。今日みんなのジュースを奢らすことにするけど…それでもいいのね??」


俺はハルヒの脅迫に軽く怯えながらどうやって昨日の話を簡潔に話すかを考えた。
あんな出来事をこいつに話してしまうくらいなら、全員分のジュースを奢る方が安い気がしていた。







結論。


あんな短い時間だったけど分かったことがある。
なんだかんだ言って、とても楽しかったかも知れない。
俺の腰辺りに感じた微かな温かみ…と言うのだろうか?それを感じた時何ともいえない気持ちになった。

どうやら俺は……アイツのことを女としてみているようだった。
さて、そう気づいたは良いが…これからどうやってこの気持ちに整理をつけようか?
ハルヒの脅迫状を聞きながら俺は、今日も活動が中止になれば良いのにと思っていた。