「…寝てる」
何とも可愛らしい寝顔で、普段からは絶対見れない表情。
……ねぇ、どんな夢見てるの?
校舎を出たところで忘れ物をしたことに気付いて、教室に戻ってみれば
夕焼けに照らされながら机にうつ伏せてる人が居た。
その背中を見ただけで分かった、星野だった。
幼稚園の頃からよく遊んだり喧嘩したり、お泊り会なんてのもやった。
面倒見も(多分)良くて、よく守ってくれてた。
意地悪だったけど憎めなかった。星野の意地悪は何だか変な気持ちにさせた。
昔からよくモテてるなぁ…とは思っていたものの、星野がトップアイドルになった時、すごく驚いた。当たり前だけど。
夜天と大気と星野で組んでるもんだから、もう人気No.1。あ、ちなみに夜天と大気も幼馴染。
まぁ、あの3人がアイドルにならない方がおかしいかな、と最近やっと思えてきた。
だけど…アイドルになった途端星野と会う機会が少なくなってちょっと寂しいなぁ…なんて。
最近よく星野に変な感情を持っている気がしてならない。モヤモヤする。胸が熱くなるような…そんな気持ち。
って私何言ってるのかな?
とりあえずぐっすり寝てる星野を起こさないように机の中から忘れ物を取り出して、机に座った。
星野の寝顔久々に見たなぁ…相変わらず綺麗な顔だった。女の私よりも綺麗で羨ましい。
だけど、彼女は居ないみたいらしいし、告白も悉く断ってると聞いてる。勿体無いなぁ。
誰か好きな人でも居るの?と聞いたら、「お前」なんて茶化されてばっかりで。星野はホント意地悪だ。
色んなことを考えながら寝顔を見てたら、もっと近くで寝顔を見たいなって思った。
「よいしょっと」
静かに机から椅子に座って、星野に近付く。まぁよく寝てることで、可愛らしいなって思ったり。
その顔からは本当に幸せそうに眠ってる事が窺えた。
最近オフが少ないって言ってたからこの分だとあんま寝てないんだね。
「にしても…ほんっとぐっすりだなぁ」
星野との距離はほとんど無い状態で、まだ寝顔を見る。
不意に星野の唇を見てしまった。…あの口からいつも綺麗な歌声が出るんだよね。あんな綺麗な声で想われてる人って誰なんだろう…?
いつも思ってた。
不本意だけど星野たちの歌を聴く度に胸の奥が熱くなってイライラして泣きそうになる。原因は分からない。
誰に切ない想いを寄せてるんだろう。
星野たちが愛しいと想う人ってどんな人?私にはそんな事言った事無いくせに。
…その綺麗な口から出る言葉を私に向けてよ、悔しい。切ない思いをさせたいのに、星野は違う人を切なく想ってる。
ズルい。卑怯。そう思うとほら、また胸が痛くなった。
だけど、それと同時に変な感情が沸いてきた。何の気持ちかは分からないけど…変。
どうしよう…そう思ったとき。
多分思考回路がショートした瞬間だったんだと思う。
私は、星野の綺麗な唇に唇を重ねた。
こんな綺麗な口から出てるなんて、、悔しい。塞いでやっちゃえ。
そう思ってゆっくりと重ねた唇を離した。…いつからこんな大胆になっちゃったんだろう。
そして自分がした事がどんなに恥ずかしい事か分かって、綺麗な夕陽を見た。……アイドルとキスした。
なんてことをしたんだろう。だけど、後悔してない気がする。むしろドキドキしてる。なんで?分からない。
もう一度星野の顔を見ようと、夕陽から星野へと視線を移した。
…綺麗な藍色をした目と目が合った。
「?!?!?!!」
目をパッチリと開け、こっちを見てる星野。
ビックリして、反射的に逃げた。教室の戸口の方へ。まさか起きてるだなんて知らなかった。顔が熱くなるのを感じながら走った。
だけど廊下へ出る事は出来なかった。
…そういや星野は運動神経抜群だったね、と暢気な事を思いながら、星野に捕獲された。
「っ、離して!」
「イヤだ」
「なんで…っ…」
星野の目を思わず見てしまった。あぁもうこれは逃げられないな、抵抗しても無駄だなって思って観念した。
「……も、もしかしてずっと起きてたの?」
「お前が教室に入ってきた時から起きてた」
「嘘……。」
怒られる、と思った瞬間
「嬉しかった」
「…え?」
思わず顔を上げてしまった。本当に幸せそうな顔をしているのが分かった。
だけど…なんで嬉しかったんだろう?急に心拍数が上がってきた。原因は不明。
どうして?なんで…?昔から星野にはこんな苦しい思いをさせられた。
いつも原因が分からなくて何かの病気かな、と思ってた。
「ただ1つだけ聞きたい。どうしてキスしたんだ?」
「…そっ、それは……」
変な気持ちになったから、なんて言えるはずが無くて私は黙った。
理由…なんだろう?単に星野に触れたいって思ったから触れた、それだけ…。
……本当にそれだけだったかな?もっと…違う感情があったんじゃないかな?
よく美奈子ちゃんやレイちゃんが言ってるような感じ。なんだっけなぁ。
そんな謎解きも一瞬で終わった。
「俺のこと好きだから、キスしたんじゃないの?」
私が星野の事を好き?そんな…まさかね。だって………でも…そうなのかな?
美奈子ちゃんの言うような感じになった、ってことはそうなのかな?
じゃあ…あのドキドキの原因は星野をスキだったから?
なんだ、そんな簡単なことだったんだ。
「おだんご顔真っ赤。」
「うっ、うるさいなぁ!!!!!」
ぽんぽんと頭に触れる星野の手。何だか急に星野に抱き付きたくなって、思わず抱きしめた。
そして小さな声で「スキ」と言った。自然に言ってしまっただけに、自分でも驚いた。
聞えてませんように…と願うも悲しく、星野は強く抱きしめてこう言った。
「俺…ずっとこうしたかった。好きだよ。やっと…想いが通じた。ったく、お前はホント鈍感過ぎ。」
.......
後日、美奈子ちゃん達に全ての事を話すと色んなことが分かった。
まず、私は星野が想っている人に嫉妬していたってこと。嫉妬って言うんだ。
それでキスをしたんだって。それから、私はずっと幼稚園の頃から星野が好きだってこと。
色んな仕草にモヤモヤしたのは、ドキドキって言って星野のことが好きな証拠だったんだって。
だから今までのドキドキや原因不明などは、全て星野の事が好きだから起きた事らしい。
…なんだ、そうだったんだ。長年悩んでいた事が1日でスッキリしてしまい、なんか呆気なかったなぁ。
だけど、その分幸せを掴めたからまぁいいかな。
美奈子ちゃん達に奪われないようにこれからは頑張らないと、ね。
***